行雲流水

エッセイ

帯を剥がしてやる

「あ〜〜れ〜〜〜」
浴衣の帯を引っ張られてクルクルと回りながら叫び声をあげる女性。鼻の下を伸ばしたお殿様が「よいではないか、よいではないか」と帯をたどり寄せる。バカ殿様でよく見たシーンである。

実際、こんな夜の営みがあったのかは知らないが、子供ながらに一度はしてみたいと思った。

『この世界の片隅に』の映画にも、嫁入りの際、傘を持って行き、初夜に合言葉を言う下りがある。

貞操観念が厳しかった時代、男女の営みには、こうした儀式が付き物だったのだろうか。

女性に、ではないが、本に対して私はある儀式を行っている。それは、本の帯を剥がす、だ。

一度読めば十分と思った本は、後で売るため帯は剥がさない。一方、何度も読みたいと思った本は、帯を剥がす。売る気がないことを示しているのである。

「これでお前は俺の物だぞ」と思いながら、今日も本の帯を剥がした。