行雲流水

エッセイ

2013-01-01から1年間の記事一覧

もう冬だと知った夜

広島市の歓楽街、流川。 流川を歩いていると、一人の老夫の後ろ姿が目に止まった。スーツとハットを着こなし、凛とした雰囲気を身に纏っていた。こんな人を紳士と言うのだろう。後ろ姿を見ただけで品位が伝わってくる。 私は興味を抱かずにはいられなかった…

妻がお気に入りのドライバー

妻は、ヤマト運輸のトラックが来ると慌ただしくなる。ドライバーに何かを手渡そうとするためだ。夏には炭酸ジュースを、冬には温かい缶コーヒーを振る舞う。ドライバーは3人ほどいて、日や時間によって担当が違う。妻は、その中でもK君がお好みのようだ。K君…

男の見分け方

「私、不倫してるんです」。騒がしい居酒屋の一角でそう打ち明けたのは、京子だった。京子は、大学を卒業してすぐに地元のA会社に就職。今年で3年目になる。遅刻や無断欠勤はなく、ハキハキとした性格で、同僚からも慕われている。だが、最近は元気が薄れ、…

小さな王様

小さな国に小さな王様がいました。王様は、昔から注目を浴びるのが好きでした。注目を浴びるために、たくさんの新しいことや珍しいことにチャレンジしました。異国の料理を流行らせたり、豪華なホテルを建てたり、珍しい果物を育てたり。そのどれもが上手く…

ウィスキーボトルを並べてみた

今日の15時半に宅配便が届いた。中身は、5日前に注文したウィスキー5本だ。自宅には飲みかけのウィスキーがまだ5本ある。先ほど届いたウィスキーと一緒に並べてみると、これがなかなかオシャンティーな眺めだ。見ているだけで恍惚する。 ウィスキー一つひと…

夜の散歩

深夜に散歩する際、必ずスマホで音楽を聴く。いつもショパンを聴いている。誰も見ていないと思い、指揮者になったつもりで、腕を大きく振って歩く。警察官に止められ、職務質問を受ける。

俺は意外にナルシスト。そう、喩えるなら……

私は意外にナルシストだ。そう、喩えるなら、村上春樹の小説に出てくる主人公のように。知り合いと一緒にBARで酒を飲む。私はシガーを吸い、ウィスキーを飲みながら、人生や恋愛について語る。時間は流れ、私は用をたしに席を立つ。トイレであることに気づく…

知ったかぶり

ガキの頃の俺は、ひどい知ったかぶりだった。えっ、俺がどれだけ知ったかぶりだったか知りたいって?しょうがないな、教えてやるよ。小学生の頃、おそらく、3、4年生だったかな、下校中、車に乗った知らない人から道を尋ねられたんだ。「○○に行きたいんです…

正直なスーパー

妻に買い出しを命じられ、私は近所のスーパーへと向かった。牛乳にパンにうどんに納豆。それと枝豆を買うのが私の使命だ。納豆の陳列コーナーで納豆を選んでいたら、賞味期限が切れている物やもうすぐ切れるものが、さも当たり前のように並んでいる。ここの…

寝るにはまだ早すぎる!

セミナー講師を務めたときの話だ。セミナー開始1時間前に会場入りした私は、控室で待機していた。そこへ、今回のセミナーを企画した課長さんが挨拶に来られた。「いや~、どんな話を聞けるのか楽しみですよ」と、にこやかに仰ってくれた。私も笑顔で応えた。…

夢の中で

妻は朝から不機嫌だ。どうやら、夢の中で私が妻をいじめたようだ。そのことについて朝から文句を言われている。私は身に覚えのない罪を責められ続ける。ひたすら「ごめん」と言うしかない。妻には夢と現実の境はないようだ。この不機嫌は妻が夜寝るまで続く…

そこにピスタチオがあったから

我が家のリビングにピスタチオの袋が置いてあった。すでに開封されており、妻が食べた痕跡がある。中身はまだ8割以上残っている。おそらく妻は、ゆっくりと楽しみながら食べているようだ。私もピスタチオが食べたくなった。ナッツ系は私の好物なのだ。数粒袋…

雨と僕の胃袋

灰色の雲が空を覆い、ポタポタと小雨が降り続ける。雨天がもたらすどんよりとした空気は、僕の気分にも厚い雲をかける。そんな日は、決まって食欲が湧かず、胃袋をいっぱいに満たすことができない。腹八分目でも七分目でもなく、四分目、三分目止まりだ。今…

初めましての君へ

数年ぶりに君に出会った。君は、僕の知る君ではなかった。僕の知る君は、君が嬉しそうに話す音楽を聴かなければ、君が楽しそうに話す映画も観ない。ましてや、お酒が苦手だったのに、お酒が飲めるようになったと、美味しいのだと僕に話しをするなんて。新し…

孤独が好き

最近、孤独になっていない。平日も休日も常に誰かが傍にいる。孤独は寂しいとか、辛いとか、悲しいとか、そんな風に思われているが、私は孤独が好きだし、孤独なしでは充実を味わえない。独りで食事したり、独りで音楽を聴いたり、独りで出掛けたり、独りで…

秋雨

連日降り続ける雨。明日には雨雲と一緒に憂鬱な気分も過ぎ去るのだろうか。秋雨が冷やした空気が身体に沁みてきた。半年ぶりにヒーターの世話になる。遠赤の熱が冷えた身体に沁みてきた。半年ぶりにココアを飲んでみる。JAZZの『枯葉』を流したくなった。 ht…

水たまり

雨が激しく降り注ぎ、街には水たまりがいくつも現れていた。細い一本道、大きな水たまりが私の行く手を阻んだ。脇の石段に登り、よけて渡る。知らないサラリーマンも私に続いた。私とサラリーマンが石段に登っている横で、一人のOLが水たまりの上をバシャバ…

風みたいな奴

煙草が切れたので、弟に煙草を分けてもらおうと自分の部屋から2歩先にある弟の部屋へ行った。部屋のドアを開けると、見ず知らずの男がまるで自分の部屋にいるかのような佇まいでソファーに座り、煙草を吹かしている。歳は自分と同じぐらいに見えた。目が合う…

恩送り

深夜の駅のホーム。俺はただぼーっと二本のレールを見ていた。服は汚れ風呂には二週間以上入っていない。髭は伸びっぱなしで、その風貌はホームレスそのものだ。いや、もうホームレスと言っても過言ではない。借金で家と家族を失い、1ヶ月前から公園で寝泊ま…

月明かりの下で黒ネコと隠れん坊

月明かりの下に黒ネコが一匹。物影に身を潜め、人が通り過ぎるのをただじっと待っている。全身まっ黒で物影に隠れているのだから、見つかるはずがないと黒ネコはきっとそう考えているのだろう。だが、すぐにバレてしまう。きらりと光る二つの目が暗闇に穴を…

我が家の小さなペット

我が家では、小指に乗る程度の小さなペットを飼っている。ペットと言っても何か世話をするわけではない。何もせずほおっておいている。私はそいつが愛くるしく、見つけると心がやわらぐ。だが、妻はあまりそいつもことが好きではないようだ。ぴょんぴょんと…

最終電車で起きた、人間ドラマ

広島駅の最終電車車両内で出発を待っている時のことだった。出発まで5分少々ある。その間、ドラマが起きた。車内トイレに、一人のおじさんが入った。数秒後、おじさんが入ったことを知らずに、若い男性もトイレに入ろうとした。若い男はガチャガチャと音を立…

コラムの執筆依頼が来たので・・・

この間、地元の経済誌の記者から「カープを応援している社長のコラムコーナーがありますが、何か書きませんか?」と問い合わせがあった。「私、カープ全然詳しくないよ」と答えたら、「じゃ、『社長の休日』というコーナーがありますから、そちらはどうです…

妻を撮影

妻は写真を撮られるのが苦手だ。極力写真に写らないようにしている。私は時々、嫌がる妻にカメラを向ける。年に何枚かは残しておきたいからだ。撮られることを観念すると、妻はいつもポーズを取る。『ポーズ』と聞くと、慣れたように思うだろう。だがそれは…

母との思い出

俺は母に可愛いがってもらった記憶がほとんどない。父とはキャッチボールをしたり遊園地に行ったり旅行に行ったり、よく遊んでもらった記憶がある。だが「母親との思い出は?」と訊かれると、どうしても言葉に詰まってしまう。だが、一つだけ鮮明に覚えてい…

おさがり

悪いことは全て弟から教わった。俺の弟は、2歳離れているが俺よりもずっと早く大人の階段を駆け登った。喧嘩の仕方も煙草の吸い方も全て弟から教わった。今日は女の扱い方について講義を受けている。弟はソファーに座り、俺は正座してメモを取っていた。「・…

二人の夢

「盛田に会いに行ってみるか」。そう提案したのは、柳田だった。俺と柳田は車に乗って移動しており、盛田の家の近くをたまたま通りかかったところだ。「おぉ、それいいね。俺、数年あいつに会ってないわ」と返事をすると、柳田はすぐに携帯を取り出し、盛田…

私の手料理

私は、私の手料理を美味しく食べる旦那を見るのが大好きだ。毎晩、腕によりをかけて作っている。旦那も喜んでおり、お腹がぽっこりと膨れあがるまで食べてくれる。もう充分に肥えてしまい、メタボの一つの指標であるウエスト85cmはゆうに超えている。私はそ…

貸した金

「永井の奴、貸した2万円返してこないんだよな」。俺は弟に愚痴った。人に貸した金の話を他人にするのは、あまり良くないと思っていたが、あまりにも永井の梨の礫な態度に苛立ち、つい愚痴ってしまったのだ。弟は「ふぅ~ん。あぁそう」と返事しただけでさ…

そういうことか 2

「正俊、近所迷惑になるから止めなさい」。母親は迷惑そうな顔をして弟に注意をしていた。弟は「あぁ、分かったようるせえなぁ」と不機嫌そうに答えている。まぁ、いつものことだ。弟は単車を走らせるのが好きで、毎晩のようにうるさいコールを切りながら走…