行雲流水

エッセイ

小説

見たくないものを見ない国

※旅人たか子と相棒エルメス(バイク)が立ち寄ったある国の話である。 入国を済ませたたか子は、今日宿泊する宿を探すためエルメスを走らせていた。街に入ると、何やら大きな声をあげながら行進する人たちがいた。 「戦争反対!!」 「武器反対!!」 「子供…

『法を守る国』

※旅人たか子と相棒エルメス(バイク)が立ち寄ったある国の話である。 入国してから20分走り続けると、見渡しのいい道にポツンと一店の喫茶店が見えた。 「エルメス、あそこで少し休憩していかないかい」 「いいね。どうやらこの国は、入国門から街までの道…

男の見分け方

「私、不倫してるんです」。騒がしい居酒屋の一角でそう打ち明けたのは、京子だった。京子は、大学を卒業してすぐに地元のA会社に就職。今年で3年目になる。遅刻や無断欠勤はなく、ハキハキとした性格で、同僚からも慕われている。だが、最近は元気が薄れ、…

小さな王様

小さな国に小さな王様がいました。王様は、昔から注目を浴びるのが好きでした。注目を浴びるために、たくさんの新しいことや珍しいことにチャレンジしました。異国の料理を流行らせたり、豪華なホテルを建てたり、珍しい果物を育てたり。そのどれもが上手く…

風みたいな奴

煙草が切れたので、弟に煙草を分けてもらおうと自分の部屋から2歩先にある弟の部屋へ行った。部屋のドアを開けると、見ず知らずの男がまるで自分の部屋にいるかのような佇まいでソファーに座り、煙草を吹かしている。歳は自分と同じぐらいに見えた。目が合う…

恩送り

深夜の駅のホーム。俺はただぼーっと二本のレールを見ていた。服は汚れ風呂には二週間以上入っていない。髭は伸びっぱなしで、その風貌はホームレスそのものだ。いや、もうホームレスと言っても過言ではない。借金で家と家族を失い、1ヶ月前から公園で寝泊ま…

母との思い出

俺は母に可愛いがってもらった記憶がほとんどない。父とはキャッチボールをしたり遊園地に行ったり旅行に行ったり、よく遊んでもらった記憶がある。だが「母親との思い出は?」と訊かれると、どうしても言葉に詰まってしまう。だが、一つだけ鮮明に覚えてい…

おさがり

悪いことは全て弟から教わった。俺の弟は、2歳離れているが俺よりもずっと早く大人の階段を駆け登った。喧嘩の仕方も煙草の吸い方も全て弟から教わった。今日は女の扱い方について講義を受けている。弟はソファーに座り、俺は正座してメモを取っていた。「・…

二人の夢

「盛田に会いに行ってみるか」。そう提案したのは、柳田だった。俺と柳田は車に乗って移動しており、盛田の家の近くをたまたま通りかかったところだ。「おぉ、それいいね。俺、数年あいつに会ってないわ」と返事をすると、柳田はすぐに携帯を取り出し、盛田…

私の手料理

私は、私の手料理を美味しく食べる旦那を見るのが大好きだ。毎晩、腕によりをかけて作っている。旦那も喜んでおり、お腹がぽっこりと膨れあがるまで食べてくれる。もう充分に肥えてしまい、メタボの一つの指標であるウエスト85cmはゆうに超えている。私はそ…

貸した金

「永井の奴、貸した2万円返してこないんだよな」。俺は弟に愚痴った。人に貸した金の話を他人にするのは、あまり良くないと思っていたが、あまりにも永井の梨の礫な態度に苛立ち、つい愚痴ってしまったのだ。弟は「ふぅ~ん。あぁそう」と返事しただけでさ…

そういうことか 2

「正俊、近所迷惑になるから止めなさい」。母親は迷惑そうな顔をして弟に注意をしていた。弟は「あぁ、分かったようるせえなぁ」と不機嫌そうに答えている。まぁ、いつものことだ。弟は単車を走らせるのが好きで、毎晩のようにうるさいコールを切りながら走…

そういうことか 1

「正俊、近所迷惑になるから止めなさい」。母親は迷惑そうな顔をして俺に言う。「あぁ、分かったようるせえなぁ」。俺は不機嫌そうに答えた。母親が止めているのは、俺が単車に乗ってコールを切ることだ。俺の家は住宅街にあり、改造したマフラーでコールを…

とんかつ定食

「昨夜未明、○○市○○町の民家で殺人強盗事件がありました」。TVから流れてくる暗いニュースを、いきつけの定食屋でとんかつ定食を食べながら見ていた。この店は古びたシャッター街にある定食屋だが、もうかれこれ20年以上通い続けている。「まったく、最近は…

SNS

ここは、とある地域の有名なレストラン。加奈子と真弓はランチをしに来ていた。カシャ。加奈子はiPhoneのカメラで運ばれてきたランチを撮影してSNSに投稿する。すぐにたくさんの反応が返ってきた。それを確認してからランチを食べ始める。毎度のことだ。 一…

じゃれているだけ

2011年7月20日村上タケルは亡くなった。享年14歳。死因は飛び降り自殺だった。遺書は見つかっておらず、部屋からは無数の落書きや破れのある教科書やノートが出てきた。また、以前からタケルの眼鏡はよく壊れ、靴も度々紛失している。あれはいじめだったので…

臓器売買

俺は今、とある東南アジアの高級ホテルのbarで、一人カクテルを飲んでいる。今月は仕事の調子が良かったので祝杯をあげているところだ。俺の仕事は、この国の闇組織から臓器を仕入れ、それを日本人に売ることだ。臓器はいくらあっても困らない。日本人はいく…

募金

「募金をお願いします」。駅の外は、通行人に募金を呼びかける若い男女10名の声が響いていた。冬の寒さが身に染みる一月中旬のことだ。正確な日にちは覚えていない。彼女らから5mほど離れた場所に青いベンチがあり、私はそこに座って彼女らをじっと見つめて…

男の偽りと女の嘘

顔を整形した。女に復讐するために。俺は容姿が悪く、モテたためしがない。モテないだけならまだいい。女からはまるで汚物に触れるかのように接せられ、卑下され続けてきた。俺を蔑んできた女が許せなかった。整形してからまるで人生が変わったようだ。パー…

殺し屋の信条

俺は殺し屋。金さえもらえれば誰だって殺す。どんな仕事も断らない。それが俺の信条だ。 今日は川西という依頼人から受けた殺しの仕事がある。なんでも村上という人間を消してほしいんだとか。何か恨みがあるのかもしれないが、まぁ、動機など俺には関係ない…

初めての小説 | 『S』

お昼どきを外した午後の2時。私と理香子は、人がまばらな喫茶店にいた。ここの喫茶店は、正午以外は客の出入りが少ない。それを知ってこの場所を選んだ。3組ほど客がいるのを確認し、出来る限り周りに人がいない席に座った。注文を受けにくる店員に「珈琲、2…