行雲流水

エッセイ

妻を撮影

妻は写真を撮られるのが苦手だ。極力写真に写らないようにしている。私は時々、嫌がる妻にカメラを向ける。年に何枚かは残しておきたいからだ。

撮られることを観念すると、妻はいつもポーズを取る。『ポーズ』と聞くと、慣れたように思うだろう。だがそれは違う。妻のポーズは、『気を付け、礼、着席』の『気を付け』なのである。足を揃え、指先をまっすぐに正す。それが写真を撮られる時の妻のポーズなのだ。

私は写真が趣味のため、数多くの人の写真を撮ってきた。だが、妻ほど撮りにくい被写体は未だかつて出会ったことがない。

今日もまた私は、妻にカメラを向けた。妻はいつものようにポーズを取る。私はクスッと笑いながらシャッターを切った。