行雲流水

エッセイ

猫とにぼし

滋賀にいる弟子から日本酒が届いた。それも地酒が5本も。
師弟関係をよく心得た弟子だ。うむ。

せっかくなので、肴と一緒に飲むことにした。
何か適当な肴はないかと台所を調べていたら、にぼしが出てきた。酒の肴としてはイマイチだが、ないよりはマシか。
むしゃむしゃと食べてみる。意外においしい。これはこれで好きだな。そういえば子供の頃、にぼしをよく食べていたっけかな。飼っていた猫にもあげてたりもしたっけ。一心不乱にににぼしを食べる猫の姿は何とも愛らしい。

無性に、猫ににぼしをあげたくなった。
そうだ、夜の散歩中、よく見かける野良猫ににぼしをあげよう。きっと喜ぶだろう。

夜、散歩に出かける。猫3匹に出会う。
一匹目、にぼしを投げる。ぱくっと食いつき、くわえたまま、そそくさと逃げていく。
二匹目、にぼしを投げる。こちらを警戒しながら、ぱくっと食いつき、その場で食べる。
三匹目、にぼしを投げる。にぼしに一瞬目を配るが、こちらを追いかけてくる。10メートル歩いて、もう一度投げる。これも目を配るだけで食いつかない。どうやらこの猫は、にぼしの入った袋が目当てらしい。ずる賢さに少し苛立った。目の前で残りのにぼしを全部食べてやる。空になった袋を逆さにしてにぼしがもうないことを見せる。猫は呆れ顔になり、先ほど投げたにぼしをくわえて闇に消えていった。