行雲流水

エッセイ

お礼

私の目の前を歩くカップルの彼女がマフラーを落とした。本人も彼氏も気づいていない。後ろにいた男性がマフラーを拾い上げ、「落としましたよ」と呼びかける。彼氏がその声に気づきマフラーを受け取り、彼女に手渡す。その間に、男性はスタスタとカップルの横切っていく。彼女が振り向いた時にはもういない。「どなたかわかりませんが、ありがとうございます」と言う彼女。「どういたしまして」と私がこたえようかと思ったが、思いとどまった。言えばよかった。