行雲流水

エッセイ

責任

出張から帰社したら、FAX機に1枚の紙がある。どうやら、出張中に受信していたようだ。送られてきた紙を見てみると、「講師が可能な日程に◯をして送り返してください。金曜日中にご返信お願いします」とある。

一瞬ドキッとした。私は誰かに講師を頼まれていただろうか。記憶を辿るが思い出せない。もしど忘れしていたら大変なことだ。何度も記憶を辿るがやっぱり思い出せない。送り主の会社名にも見覚えがない。

送られてきた紙をもう一度よく見てみると、宛名が「徳永様」と書いてある。ホッとした。私の物忘れではなく、間違いFAXだったのだ。

さて、どうしたものか。今は金曜日の23時。締め切りまで1時間しかない。電話をするにしても夜遅いし、というか、電話番号が書いてない。さて困ったぞ。送り主はきっと本人に届いていると思っているはず。返信がなければ、この徳永さんという人が「期日までに返信を送り返さない無礼な講師」と思われてしまうに違いない。もしかしたら、講師の話も消えるかもしれない。

そうだ、代わりに日程に◯をして送り返してあげよう。そうすれば、とりあえずの体裁は保てるはずだ。もし、徳永さんがその日程が空いていれば何も問題ないはず。もし日程が合わず、私に「責任を取れ」と言ってきたら、「責任を取りましょう。私の講師料は1時間あたり10万円です」と言い、仕事として受け入れよう。うん、それがいい。誰も不幸せにならない。

とりあえず、適当に◯をして返信しといた。