行雲流水

エッセイ

意地が悪い

「あなたって、本当に意地が悪い」
このセリフは、週に20回妻から言われる。今日も言われた。

夕刻、些細な喧嘩から妻は「家を出ていく」と言い、玄関を出た。この言葉は額面通りのものではなく、「頭にきたから買い物をしてくる」の意味を含んでいる。

3時間後、私がお風呂に入っている時に妻は帰ってきた。だが、家の鍵はかかっている。妻は、外からお風呂場の窓を叩き、開けろと叫ぶ。顔を見なくても鬼の形相であることが容易に想像できた。

慌ててお風呂から上がり鍵を外す。玄関に入るなり、発せられたのが冒頭のあの言葉だ。帰ってくるのをわかっていながら鍵をかけたと言いたいのだ。

言い訳をさせてもらえば、妻はいつも私に「家にいるときも鍵はかけるように」と言い聞かせてきた。私は従順な犬のようにその言いつけを守ったに過ぎない。にもかかわらず、わざと鍵をかけた意地の悪い男と私を罵るのだ。

釈明しても火に油を注ぐだけだ。私はただひたすら謝ることに徹した。いつもこんな感じだ。意地が悪くてしたわけでもないのに、意地の悪い男というレッテルを貼ってくる。そして私は黙ってそれを受け入れる。

深夜零時、妻は寝た。妻が買ってきたシュークリームにワサビを入れる。