行雲流水

エッセイ

機械化

海外旅行の密かな楽しみと言えば、パスポートに押されるスタンプである。パスポートを眺めるたび、「こんなにも海外にきたんだな」といった悦に浸たれる。

シンガポールから日本に帰国するときのことである。チェックインを済ませようと空港会社の窓口まで行くが、受付人が見当たらない。その代わりに、いくつもの無人機が並んでいる。この機械で手続きしなくてはいけないようだ。恐る恐る画面にタッチをしながら、簡単な入力を数回とパスポートをスキャンしたら搭乗券が出てきた。

驚いたのはそれだけではない。出国まで無人機なのだ。パスポートと指紋をスキャンするだけで出国審査が完了した。なんと便利になったことか。これでは出入国審査官の仕事がなくなるのではないか。そんな心配を一瞬したが、それよりもずっと大切なことをに気づいた。出国のスタンプが押されていない。機械化が進めば、パスポートを眺めて悦に浸るという、ささやかな楽しみがなくなってしまう。

機械化してもいい。だがせめて、スタンプだけは押してほしい。