行雲流水

エッセイ

まほう

「今からね、パパが魔法でチョコレートを出してあげるからね」。
そう言って隠し持っていたチョコレートを箱に入れて息子に手渡す。箱の中を覗いた息子は、「わぁ」と声を上げ、明るい顔を見せた。

翌日、もう一度喜ぶ顔が見たくて、魔法を見せることにした。丁度今日、注文していたおもちゃが数点届いたところだ。

夜6時。
「パパがね、また魔法を使うから、ちょっと後ろ向いててね」。
素直に後ろを向く息子。私は背中に隠し持っていた刀のおもちゃを出して見せると、昨日と同じように明るい顔をしてくれた。

おもちゃの刀で2時間ほど遊んだ頃、息子が「また魔法やってー」とお願いしてきた。魔法を信じている姿が可愛くて仕方ない。「いいよ。でも、お風呂入って歯を磨いたらね」。息子は「わかったー」と気持ちいい返事をした。

いつもはグズるお風呂も進んで入り、歯磨きも抵抗せず磨かせてくれた。歯磨きを終えると、「まほう、まほう、まほう」と期待交りに連呼する。「じゃ、後ろ向いて目をつぶっててね」そう言うと、素直に後ろを向き目をつぶる一息子。

階段に置いておいたブロックのおもちゃの箱を手に取り、息子の前に持ってくる。「もう目を開けていいよ」。目を開けた息子は、「なんだろう、なんだろう」と言い、箱を開ける。中身を見て発した一声は、「あれ、これ買ったの? いらないって言ったのに」。

そう、はなから魔法の存在なんて信じちゃいなかったのだ。