行雲流水

エッセイ

殺し屋の信条

俺は殺し屋。金さえもらえれば誰だって殺す。どんな仕事も断らない。それが俺の信条だ。

 

今日は川西という依頼人から受けた殺しの仕事がある。なんでも村上という人間を消してほしいんだとか。何か恨みがあるのかもしれないが、まぁ、動機など俺には関係ない。金さえ前金で払ってもらえれば、それでいい。さて、仕事に行くとするか。

 

深夜零時。俺は村上の自宅に忍び込み、村上のいる仕事部屋の前に立った。この部屋に村上がいるのは、外から見てすぐに分かった。この部屋だけが煌々と明かりがついているのだから。どうやら、相当仕事熱心らしい。

 

俺はゆっくりと部屋のドアを開けた。ギィィと開く音に村上は気づいたようだ。「ん。誰だ。誰かいるのか」「殺し屋だ。お前を殺しに来た」。そう言い銃口を村上に向けた。「最後に言い残すことはないか」「だ、誰だ。誰が俺に殺しを依頼したんだ」慌てふためきながら村上は叫んだ。「それは言えない。まぁ、それを知ったところで何にもならないだろう。これからお前は死んでしまう訳だしな」。俺は鼻で笑うように言った。
「俺を殺すのにいくらもらった。俺はその倍を払う」「ほう。倍を払うって言うのか。お前を殺すのに300万払ってもらったよ」「よし、じゃ、600万払おう。金ならそこの金庫にある。ちょ、ちょっと待ってろ」。村上は金庫に駆け寄り、震える手で暗証番号を入力した。金庫を開けるとそこには札束が山積みになっていた。ゆうに3000万以上はあった。
「なっ、こ、ここにある600万で俺を殺すように言った奴を殺してくれ。出来るだろ」。「了解した。では、お前を殺すように言った依頼人を600万で殺すことにしよう」「そうか、そうか。あぁ良かった。助かった」
俺は銃口を村上の額に向け、引き金を引いた。パンッと乾いた音と同時に村上は床に倒れた。札束の山から600万分だけ金を抜き、そのまま部屋を後にした。

 

午前壱時。俺は川西の自宅に行った。
川西は朗報を待ちわびているような顔で俺に近付いてきた。「どうだった。上手く行ったのか?」「はい。村上はちゃんと殺して来ました」「そうかそうか。あいつめ、死におったか。はははははっ」。川西は満面の笑みを浮かべ声高々に笑った。

 

俺は川西に銃口を向けた。
「お、おい、何のマネだ」。川西の顔からは笑みが消え、顔が一気に青ざめていった。「お前を殺すように言われた。依頼人は言えない。まぁ、それを知ったところで何にもならないだろう。これからお前は死んでしまう訳だしな」「と、取り消せないのか?」「取り消せない。俺の信条は知っているよな。誰だろうと金さえもらえば必ず殺す。それが俺の信条さ。さぁ、最後に言い残すことはないか」。

 

川西は覚悟を決めたのか呼吸を落ち着かせながらこう言った。「私からもう一つ依頼がある。ここにある100万でお前を殺してくれ」「言いたいことはそれだけか」。俺は銃口を川西の額に向け、引き金を引いた。パンッと乾いた音と同時に川西は床に倒れた。
それから俺は銃口を自分のこめかみに向け、引き金を引いた。パンッと乾いた音と同時に俺の視界は真っ暗になった。