行雲流水

エッセイ

男の偽りと女の嘘

顔を整形した。女に復讐するために。
俺は容姿が悪く、モテたためしがない。モテないだけならまだいい。女からはまるで汚物に触れるかのように接せられ、卑下され続けてきた。俺を蔑んできた女が許せなかった。

整形してからまるで人生が変わったようだ。
パーティーに出れば、女から声をかけてくる。女が俺との会話を楽しんでいる。気のある素振りをしてくる。すべてが初めての経験だった。

それからというもの、この3年間で俺は何人もの女を抱いた。女と付き合って分かったのは、所詮女は表面的な『顔』と『金』と『肩書き』の3Kで男を見ているということだ。
俺は女と会う時、ブランドの時計をはめ、嘘の肩書きを名乗った。バレることはほとんどない。3回以内のデートでベットインして、翌日には別れの連絡をするからだ。素性が分かる前にその女とは縁を切る。これの繰り返しだ。抱いた女を捨てるたび復讐心が満たされ、何とも言えない快感に浸ることができる。

今日も一人の女に会う。深夜の1時にbarにいたところ声をかけた。思った通り意気投合し、連絡先を交換できた。容姿も良くスタイルも抜群だ。少し化粧が濃かったのが難点だったが、それ以外は文句ない。
この女の親は病院の医院長らしい。こういう裕福な環境で育ち、なに不自由なく育って来た女は鼻につく。散々弄んで捨ててやりたくなる。
この女とは2度のデートを楽しんだ。今日のデートでホテルに行く予定だ。
雰囲気の良いレストランに行き、場所を変えて軽くお酒を飲む。女性は少し酔い、隙を見せてきたら、ホテルに誘ってもいいというサインだ。当然、俺はそのサインを見落とさない。それとなくホテルへ誘う。誘い方は企業秘密さ。

「マンション近くだから。私の部屋に来ない」。女の方から誘ってきた。そういうパターンもままある。
タクシーに乗り、女の住むマンションに向かう。マンションにつき部屋に入った。さして広くもない1LDKの部屋に必要最低限の生活用品しか置いていなかった。医院長の娘が住むマンションにしては不相応に思えた。「意外? 父は厳しい人で一切援助しないの。生活費は当然、自分で稼いでいるのよ。だからあまり贅沢できないの。食事も外食なんてほとんどしないし。ほら見て、今日も急いでいて包丁出しっぱなしで出社しちゃった」。女は台所に指を差しながら笑った。「そうなんだ。でも、親も心配でしょ。可愛い娘を外に出して」「ふふ。そうね。『いい見合い相手がいるから、お見合いしろ』ってうるさいの。勧められるのはみんなお医者さんなんだけどね」。
俺にとっては、どうでもいい会話だった。明日には別れる女なのだから。

たわいもない会話をしばらくして、ようやくベッドに入ることができた。
今までの女以上に相性が良く、朝方まで女の身体を楽しんだ。いつの間にか眠っており、気づいた頃には陽が高く上がっていた。時計の針は11時半を指していた。シャワーの音が聞こえてくる。きっと彼女はシャワーを浴びているのだろう。
机の上に手紙が置いてあった。女と苗字が同じなので、おそらく親族からのものだろう。気になり手紙を開いて読んでみた。手紙の内容は、父が病気で倒れ、借金を返せない、少しでもいいからお金を送ってほしいというものだった。


頭に来た。この女は俺を騙していたんだ。
俺は浴室の扉を強く開けて怒鳴った「どういうことだ、これ」。驚いた女はこちらを振り向いた。その顔は俺が見たことのない、まるで別人のような顔だった。「誰だよ、お前」。女の顔の変貌ぶりに先ほどの威勢はどこかに消え失せた。「見たね。まだ化粧もちゃんとしていないのに。それに手紙まで勝手に読んで」「お前、騙したな。何が医院長の娘だよ。それに、何だよ、そのふざけた顔は。なめんじゃねーよ、このブス」。俺は力いっぱいに怒鳴り上げた。もうここにはいれない。さっさと帰ろう。服を急いで着て、玄関で靴を履き、帰ろうとしたその時だった。突然、背中が熱くなり、次に痛みが走りだした。下着姿に髪が濡れたままの女が俺の背中に包丁を刺していたのだ。「ほんっっと、嫌よね、男って。表面的な顔と身体と仕草にすぐ騙されるんだからさ。今まで私を馬鹿にしてきた男に復習してやっているだけなのに。あんたもさっさと貢いでくれたらさ、使い捨てしてあげたのに」。目の前に立っている女は、今まで見たこともない鬼のような形相だった。

言葉が出ない。だんだん足に力が入らなくなってきた。俺は床に仰向けに倒れ、女の顔が視界に入った。その顔は笑みを浮かべながら、俺を蔑んでいた。