行雲流水

エッセイ

じゃれているだけ

2011年7月20日村上タケルは亡くなった。享年14歳。死因は飛び降り自殺だった。
遺書は見つかっておらず、部屋からは無数の落書きや破れのある教科書やノートが出てきた。また、以前からタケルの眼鏡はよく壊れ、靴も度々紛失している。あれはいじめだったのではないかと両親は直感した。いじめが原因で自殺したのではないかと学校に訴えたが、学校側はそんな事実はないと主張。
両親は事実を掴む為、タケルのクラスメイトに端から電話をかけた。クラスメイトの一人渡辺香は泣きながら学校でいじめがあったことをタケルの父に打ち明ける。いじめをしたのは4名、主犯は田辺純という男子生徒だとわかった。

 

両親は裁判を起こした。
裁判所で田辺は、タケルの両親に涙ながらに謝罪した。「いじめているつもりはありませんでした。ふざけて、じゃれていただけなんです。まさかタケル君が自殺してしまうんなんて・・・」。
タケルの父は、今にも殴りかかりたい気持ちを必死でこらえながら、震える声で田辺に訴えた。「まさか、殺意がなかったと言えば、許される、罪が軽くなると思っているんじゃないのか。じゃれていただけで人を死に追いやる人間は、殺意があって死においやる人間より鬼畜だぞ。そうは思わないか、田辺君」。田辺は一瞬顔を曇らせ、目線を下に落として「ごめんなさい」と漏らした。タケルの父は歯を食いしばり、拳を強く握りしめ、机を叩いた。机を叩く音と同時に、タケルの母は堰を切ったように泣き出した。
裁判は結局、いじめをした生徒たちの罪はほとんど問われることなく幕を下ろした。その後、田辺は学校を転校。

 

あれから半年。
とある中学校では、男子生徒が腹を殴られ、財布から所持金を取られていた。「もうやめてよ、田辺君。これ以上お金ないし、もういじめないでください」。田辺は男子生徒の顎を掴み優しく囁いた。「やだな〜、いじめないでなんて。じゃれているだけだろ」。