行雲流水

エッセイ

臓器売買

俺は今、とある東南アジアの高級ホテルのbarで、一人カクテルを飲んでいる。今月は仕事の調子が良かったので祝杯をあげているところだ。
俺の仕事は、この国の闇組織から臓器を仕入れ、それを日本人に売ることだ。臓器はいくらあっても困らない。日本人はいくらでも高く買ってくれるからな。
今月はたくさんの臓器を仕入れることができた。現地の闇組織が上手く仕事をしてくれたお陰だろう。どんな手口で臓器を集めたかは知らないが、いつもより倍近く仕入れることができた。

悦に入りながら酒を飲んでいると、一人の女が話しかけてきた。赤い口紅と艶やかな黒髪が良く似合っている現地の女だった。「ねえ、一人で飲んでいるの?」。「そうだよ。君も一人かい? もしよかったら、一杯おごらせてくれないかい。今日は気分がいいんだ」「嬉しいわ。じゃ、遠慮なく一杯もらうわ」。「マスター。ビトウィーン・ザ・シーツちょうだい」。彼女がカクテルを注文すると、淡いオレンジ色のショートカクテルが運ばてきた。彼女はグラスの脚を細く長い指で摘み、ゆっくりと口元へ持って行った。カクテルを飲む妖艶な仕草にすっかり見惚れてしまった。それから30分ほど一緒にカクテルを飲んだ。そこまでは覚えている。


すっかり寝てしまったのか、意識がもうろうとしている。だが、身体はなぜかガタガタと震えていた。目を開くと俺は浴槽の中にいた。浴槽には水が張ってあり、氷がいっぱいに入れられている。状況が分からなかった。とにかくこのままでは凍え死んでしまう。一旦浴槽から出ようと身体を起こした時、右腹部に痛みが走った。自分の腹部を見ると、縦に伸びた15cmほどの傷口とそれを塞ぐような縫合の痕があった。