行雲流水

エッセイ

おさがり

悪いことは全て弟から教わった。俺の弟は、2歳離れているが俺よりもずっと早く大人の階段を駆け登った。喧嘩の仕方も煙草の吸い方も全て弟から教わった。
今日は女の扱い方について講義を受けている。弟はソファーに座り、俺は正座してメモを取っていた。
「・・・で、まぁ、女ってのはさ、そうすれば喜ぶんだよ」。弟は煙草をふかしながら俺に教える。俺は姿勢を正し「はい。勉強になります」としっかりと答えた。「兄貴はまだ彼女がいないから、役に立たないだろうけどさ」「すいません。将来きっと役立たせます」「まぁ、今日はそんなところだ」「はい。ありがとうございます」。俺は一礼して立ちあがり、部屋を出ようとドアへ足を運んだ。すると弟は後ろから、「あぁ、もし俺のおさがりでよかったら、女、紹介してやるよ」と言ってきた。俺は表情を変え「正俊よ。いくら俺でも、弟のおさがりを譲ってもらうほど、兄としてのプライドは捨ててない」と怒るように言った。弟は驚いた顔をして「お、おう。悪かったな。そうだな」とだけ返した。

俺は弟のドアを閉め、自分の部屋に移った。ソファーで横になって休んでいたが、どうも、気持ちが落ち着かない。兄としてこのままでいいのか考えた。

30分後、俺は弟の部屋のドアを開けた。
「なんか用か?」と弟が尋ねると、俺は弟のそばに行き、こう言った。「あの、さっきのおさがりの話なんだけど。よろしくお願いします」。俺は深々と頭を下げた。弟は呆れと笑いを含んだような顔をして答えた。「兄貴、プライドはどうした」。

※この話はノンフィクションです。