行雲流水

エッセイ

二人の夢

「盛田に会いに行ってみるか」。そう提案したのは、柳田だった。俺と柳田は車に乗って移動しており、盛田の家の近くをたまたま通りかかったところだ。「おぉ、それいいね。俺、数年あいつに会ってないわ」と返事をすると、柳田はすぐに携帯を取り出し、盛田に電話をかけた。「おう、盛田、今家にいる? ちょっと近くの公園まで出てこいよ。深井もいるからさ」。そう告げると、柳田は電話を切った。「盛田、出てくるってよ」。
近くの駐車場に車を停め、盛田の家から300mほど離れた公園のブランコに座り、俺と柳田は盛田が来るのを待った。「盛田さ、最近あいつ元気ないんだよね。なんか仕事場での人間関係が上手くいっていないようで」。柳田は盛田の近況を俺に教えてくれた。「そうか。じゃ、元気づけないとな」。俺はブランコを揺らしながら答えた。

俺と盛田は小学生の頃、親友だった。一緒にお笑い芸人になろうなと約束した仲だ。小学6年の時に、自分の夢をカセットテープに吹き込み、それをタイムカプセルとして埋める行事があった。俺も盛田も、お互いコンビになってお笑い芸人になると吹き込んだ。だが、中学、高校と進学するに連れ、関わる時間は少なくなり、社会人になってからはパタリと会わなくなっていた。

盛田が公園に現れた。表情は明るくなく、疲れている様に見えた。
盛田もブランコに座り「久しぶりだな」と口にした。元々おしゃべりな性格だっただけに、こちらから話題を振らなくても自分から色々話し始めた。仕事の不満に話題が移るのにそう時間はかからなかった。

盛田の不満話を遮るように、俺は「なぁ、盛田、俺達、親友だよな」と話しだした。盛田は顔を険しくさせ「あぁっ?」と返事をした。俺は構わず続けた。「小学生の頃に埋めたタイムカプセル、覚えているか。ほら、お互いお笑い芸人になろうって約束したよな」「あぁ、そんなことあったな。何だよ、いきなり」盛田の顔はまだ険しかった。俺は構わず続けた。「お前、夢、諦めちまったのか?」「はぁあ、お前、これ以上面倒くさいこと言うなら帰れよ」盛田はさらに顔を険しくさせて言った。俺は構わず続けた。「俺、お前がまだ夢諦めてないんなら、芸人になってもいいんだぜ」。盛田はこれ以上ない険しい顔をして「もういい、もう俺帰るわ。じゃあな」と言い、ブランコから降りて歩きだした。
30m離れたところで、俺はブランコから降りて、叫んだ。「もりたー、お前、知っているか」盛田は足を止め振り向いた。俺は続けて叫んだ。「こんな言葉がある。夢は逃げない、逃げるのはいつも、じぶ・「もういい。もう帰れ帰れー。お前らさっさと帰れー」。盛田は俺の言葉を遮るように叫び、走り出した。一切振り返らず、前だけを向いて。

 

※この話はノンフィクションです。