行雲流水

エッセイ

そこに鉄棒があったから


1か月前、近所に大きな遊戯施設が建てられた。
どんなものかと一度は入ってみたいと思ってはいたが、18時に閉館するため、なかなか時間の折り合いがつかずにいた。

今日の夕刻、仕事が煮詰り、頭を休めようと散歩に出掛けた。いつもの散歩コースに遊具施設がある。近くを通りかかると、子供たちが快活な声が聞こえてきた。閉館30分前だった。中に入ると、遊具に夢中になって遊ぶ子ども達の姿があった。自分が子どもだった頃を思い出す。私もあんな風に遊び回ったっけかなと。昔の自分と子ども達を重ねながらゆっくりと見て周っていると、一本の棒を見つけた。鉄棒である。
運動不足もあり、以前から懸垂(けんすい)をしたいと思っていたところだ。
長袖を脱ぎ、Tシャツ1枚になる。ジャンプして鉄棒にぶら下がった。こう見えても私は、学生時代は懸垂が得意だった。ゆうに30回は出来た。

「ふん!」
腕に力を入れる。

「ふんぬー!」
もう一度、さらに力を入れる。

「ぬおーーー!!」
歯を食いしばり、渾身の力を振り絞る。

着地。

ふぅーー。





一回も懸垂できんかった……。



ふと周りに目線を移すと、子どもたちが私の様子を見ていた。
「鉄棒にぶら下がると、身体が伸びていいよなぁ。ははは」と独り言を言って、その場を後にした。