行雲流水

エッセイ

この匂い、私は知っている

糠漬けの糠を練る。これは私の日課だ。
きゅうりに人参、ナスに大根。とりわけ、きゅうりは私の好物だ。そのため、糠漬けの半分以上がきゅうりとなる。

今日も昨夜漬けたきゅうりを取り出して漬かり具合を見る。うん、いい塩梅だ。漬かり終えたきゅうりをボールに入れ、かめの中にある糠をせっせと練る。練り終えたら、新たな野菜をかめに入れる。当然きゅうりだ。

一仕事終えると、手には糠の臭いがこびり付いている。洗わなければ、四六時中臭いを嗅ぐ羽目になる。練っている時はいい匂いに思える糠の匂いも、一日中嗅ぐとなると、さすがに嫌気が差してくる。洗面所に行き、石鹸で手をよく洗う。それでも完璧には落ちない。

数時間後。
私の手からは、糠と石鹸と汗が相まってどこか憶えのある匂いが漂ってくる。毎度のことだ。そのたび、この匂いは何なのか、どこで嗅いだのかと考えてしまい、頭から離れなくなる。耐えきれなくなったら、また石鹸で手を洗う。それで匂いはだいぶ薄まる。だが、今回は思い出してみようと試みてみた。手は洗わない。そう心に決めたのだ。

そして、その瞬間は来た。
思い出した。

そうこれは、この匂いは、
『ポテトチップスのコンソメ味』だ。
強烈なアハ体験。それに続く爽快感。


今度はポテチが頭から離れなくなった。