行雲流水

エッセイ

息子が産まれる。

待合室。
私はソワソワして椅子に腰を落ち着かることができないでいた。妻が手術室に入ってから一時間ほどで子どもと対面できると聞き、その時を心待ちにしているのだ。もう45分が経過しようとしている。その時は、直ぐそこまで迫っている。あぁ、刻々と時が流れにつれてソワソワしてくる。同時に顔がほころんでくる。

15時10分頃、見覚えのある看護婦が私を呼びに来た。その瞬間悟った。産まれたのだと。「男の子でしたよ」。「男の子ですか!」声のテンションが自然と上がる。はじめてみる我が子。なんだろう、何とも言えない不思議な感覚だ。我が子なのは分かるのだが、なんとも現実味がない。雲を掴んでいるような感覚。それでも、筆舌に尽くしがたい感動がある。

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10分後、看護婦は洗った赤子を私に抱かせてくれた。これが産まれたばかりの温もりか。これが私の子の温もりか。ぎゅっと強く抱きしめたい。頬づりしたい。だが、壊れそうな小さな体にそれはできない。グッとこらえ、優しく抱き寄せ、心で強く抱いた。
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家路。月がいつも以上に輝いて見える。目の錯覚ではない。今宵は満月。そして今年最後のスーパームーンだ。それに大安。
息子は、なんと縁起の良い日に生まれたのだろう。きっとこの子は私以上に男になる。根拠のない自信だが、私には分かる。
この子には、私のとっておきを教えてやる。