行雲流水

エッセイ

弟夫婦

長野県の実家には、私の背広などを残している。帰って先でも仕事ができるようにだ。
ある日、実家に戻ってタンスを開けると、背広をはじめ、コートなどがなくなっていた。

「あれ、服がない」と探していたら、弟が「ああ、服ならてっちゃん(親戚)に売ったよ」。私は、「はぁ~、なに売ってるんだよ」と言い、眉をひそめた。弟は悪びれる様子もなく、「だって、使ってなかったじゃん」と吐き捨てた。だんだんと腹が立ってきた。「お前、あのスーツ7万円以上してんだぞ!」と語気を強くして文句を言う。

そこに弟の嫁が仲立ちに入った。「そうよ。なんでてっちゃんに売ったの」。さすがに嫁は良識があるなと思った。続けて嫁は言った。「たった1万円にしかならなかったじゃない。ほかの人に売れば、もっと高く売れたかもしれないのに」


「そこじゃねーだろ!!」


毒気を抜かれた。