行雲流水

エッセイ

小中高と同じ学校に進学した同級生のM君。彼とは今でも年に3回は一緒に酒を飲むほど仲がいい。

M君は、昔から小心者で心配性な奴だ。不良に絡まれたらすぐに謝ってしまうし、「ウィルスが怖くてパソコンがいじれない」などと年寄りみたいなことを言って、つい最近までパソコンを使えずにいた。でも、そんな性格が彼の良さでもあり魅力なんだとずっと前から私は知っている。今日は、そんなM君の思い出話をしよう。

中学3年秋、M君に初めての彼女ができた。男女の恋、直接的に何か手伝うことはできないが、あたいは陰から見守り続けた。

M君は奥手だった。小心者も相まって、彼女の指に自分の指が触れただけでどうしていいかわからず戸惑っていた。まともに手を繋げるようになったのは、年明けぐらいだった記憶している。だが、良好に進んでいたかのように見えた関係も、卒業前には終わりを告げていた。

高校に進学してから3か月後のことだ。M君の家に遊びに行ったとき、M君は私にあることを打ち明けた。「実は俺、この間、○○校の女子と初体験したんだよね」と。驚いた。あの奥手だったM君が事を済ませていたとは。「おお、良かったじゃん」と祝福すると、M君は少し複雑そうな表情を浮かべた。そして私の前に指を出してこう言った。「4本入った」。

「4本入った」。
この言葉が含む情報量は膨大だった。その一言だけで、M君がなぜ嬉しさと驚きと困惑が入れ交じった表情をしたのかが一瞬で理解できた。「普通、4本も入る?」と、高校1年の男児なら当然抱くだろう疑問を私にぶつけてきた。「もう何も言うな」とだけ言い、それからお互い、この話題には触れないようにした。

あれから20年。M君は結婚してマイホームを建てた。そして二児の父にもなった。今、M君の指を掴んでいるのは、可愛い娘たちだ。

ずっと前から私は知っていた。M君の指にいつか幸が訪れることを。