行雲流水

エッセイ

そういうことか 1

「正俊、近所迷惑になるから止めなさい」。母親は迷惑そうな顔をして俺に言う。「あぁ、分かったようるせえなぁ」。俺は不機嫌そうに答えた。
母親が止めているのは、俺が単車に乗ってコールを切ることだ。俺の家は住宅街にあり、改造したマフラーでコールを切れば、当然近所に音は鳴り響く。それを嫌って母親は俺に注意しているのだ。俺は俺でそんなことはお構いなしに、爆音を鳴り響きかせて単車を走らせていた。

バイクを快調に走らせていると、パトカーや白バイとよく出くわす。それも比較的高い確率で。他の奴と比べても、なぜか俺だけ遭遇率が高い。仲間から「警察ホイホイ」と揶揄されていた。
警察と出くわした時は、細い道を走りぬけて逃げるのがセオリーだ。だが、出来ることなら警察との追いかけっこはしたくない。そう何度も逃げ切れるわけではないし、何より事故をするリスクがある。数え切れないほど、警察と追いかけっこをしては捕まったり逃げ切ったりもした。

3年後、俺は単車を完全に卒業した。社会人になり、近所はもちろん、世間に迷惑をかける行為はしなくなった。
ある時、母親のスケジュール手帳が目に入った。3年前のものだ。手帳を覗いてみると、目を疑うようなメモがいくつも記されていた。「20時40分 正俊、バイクで出掛ける。警察に電話」。俺はスケジュール帳を床に叩きつけた。

 

※この話はノンフィクションです。

 

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