行雲流水

エッセイ

思い出のbar

歓楽街から一本外れた道に一軒のBARがあった。“あった”と言うのは、今はもうないからだ。おそらく潰れたのだろう。最近通りかかってみたら、空きテナントになっていた。

BARの入っていたビル2階の窓には、大きなガラスが一面に貼られている。
夜、この道を通るたび、バーテンダーがガラス越しに、道行く私を鋭い眼差しで見下げてきていた。お店に入らないだろうかという面持ちで見てくるのだが、見られているほうは結構と怖い。怖いものだから、足が遠のく。きっと、私だけではなく、通りかかる人全員にしているのだろう。日に日にガラス越しからの眼差しが鋭くなる。ますます足が遠のく。

夜、BARがあった道を通るたび、ふと鋭い眼差しを思い出す。多分、この先も忘れない、ここにあったBARとの思い出。