行雲流水

エッセイ

貸した金

「永井の奴、貸した2万円返してこないんだよな」。俺は弟に愚痴った。人に貸した金の話を他人にするのは、あまり良くないと思っていたが、あまりにも永井の梨の礫な態度に苛立ち、つい愚痴ってしまったのだ。弟は「ふぅ~ん。あぁそう」と返事しただけでさほど関心がないようだ。

1か月後、永井が俺の家に顔を出した。遊びに来たようだ。金も返さずによく遊びに来れたものだと思い、「お前、金返せよ」と怒る様に言うと、永井は、驚きと動揺を含んだ顔をしてこう返してきた。「えっ、この間お前の弟が来て、お前から借りた2万と払えって脅されて、ちゃんとすぐに2万円払ったんだぜ。何、知らないの?」。弟ならやりかねない。永井の状況や表情を見るからに嘘をついている様に思えなかった。

その晩、俺は何食わぬ顔で弟に尋ねてみた。「なぁ、お前、永井からお金取り立てたんだろ。ありがとうな、俺のために」。弟は一瞬驚き、半笑いを浮かべながら、「あっ。あぁ、あれね。そうだよ。俺、兄貴に変わって取り立てに行って来たんだよ。いや~、大変だったよ、あいつ。お金ないとか言うからさ、ちょっと気合入れておいたから。そうそう、これ兄貴の2万ね」と言い、財布から2万円を出して、俺に手渡した。俺が何も言わなければ、俺の2万を自分のポケットに入れる算段だったのだろう。
弟が永井への風当たりを強くしたのは、それからのことだった。

 

※この話はノンフィクションです。